デ・レパレッジは行きすぎたレパレッジを正常な水準に戻す作業で、個々の経営判断としては正しい。
ただ、大半の銀行が同じ方向を向いたとき、世界的に資金が不足し、景気が底割れした。
難しいのは、デ・レパレッジが急激に進むと世界的な大不況になりかねないことだ。
実態からかけ離れたマネー経済の調整は欠かせないが、崩れるにまかせると経済自体も崩壊する。
そのため、4月にロンドンで開いたG7首脳会議(金融サミット)は、まず景気回復に取り組み、景気が回復すればレパレッジを生み出した銀行規制にメスを入れる考えを示した。
現在、デ・レパレッジの速度調整をしているのは政府だ。
手綱を緩めない銀行に代わってレパレツジ資金を供給し、それに支えられていた証券化商品の購入にまで動いている。
米財務省は民間金融機関と投資基金を作り、政府保証付きで資金を借りて投資規模を膨らませ(レパレツジをかけて)、商業用モーゲージ融資担保債権や住宅ローン担保債権を買い取る仕組みを作った。
しかしレパレッジで膨らんだマネーと、それに支えられた借金漬け経済の規模は巨大で、政府の介入でその崩壊を食い止めるのは難しい。
コアティアーが8%で決まれば、マネー経済はピーク比3割程度縮小する可能性もある。
金融市場は縮み、経済に強いデフレ圧力がかかる見通しだ。
またデ・レパレッジのリスクは政府部門に移転され、財政は着実に悪化している。
公的資金の投入で一時的に金融株が上がっても、政府財政の健全性は簡単には回復せず、問題の長期化は必至だ。
最大の借金主である米政府は、レバレッジで膨らんだマネーに支えられていた。
デ・レパレッジでマネーが縮小すると、巨額の赤字ファイナンスが難しくなる。
実は最大の問題はレパレッジに依存した米国経済が持っかどうかで、その帰趨によってはドルの暴落による国際金融システムの大混乱が起きる恐れがある。
極限まで膨らんだレパレッジの軟着陸は、簡単ではない。
儲ける金融を支えたのは自己取引である。
金融機関はもともと顧客サービス中心だったが、自らポジションを取って利益を上げることをめざし始めた。
ただ高いリターンをめざせば、高いリスクを伴う。
金融機関は投機で利益を追求する不健全な道に迷い込み、サブプライムローン関連の投機では身を滅ぼすところが続出した。
2008年、JPM・Cに衝撃が広がった。
P・Dは、金融機関が自らの資金を集めた自己勘定で株式や債券などの投資を手がけ利益を上げる部門。
好調なときは3ヵ月を超える利益を記録するなど、グループの稼ぎ頭だった。
ところが9月にR・Bが破綻したのを受けて株式や債券市場が混乱し、同Dは大きな損失を被った。
JPMは政府から公的資金を注入され、リスクの高い自己取引との決別姿勢を打ち出す必要があった。
JPMに続いてプロップ取引の縮小に動いたのは、ドイツ銀行だった。
ドイツ銀行はJ・A最高経営責任者(CEO)の投資銀行業務に力を入れる経営方針のもとで、A・J氏がグローバル・マーケット部門を率いて自己取引に注力。
グローバル・マーケット部門はかつては社内では最高益をたたき出し、A氏はA氏の後継と目されていた。
世界の株式や債券のトレーデイングでの損失を計上したあとだけに、高リスクの自己取引を継続するのは経営上得策ではないと判断した。
ドイツ銀行は、グローバル・マーケット部門では欧州勢で最大。
この部門で6000人にものぼる人員を擁していたが、自己取引の縮小などで900人近くを削減した。
米国で自己取引の雄といわれたG・Sは、赤字を計上した。
同社が四半期決算で赤字に陥るのは、1999年の上場以来初めてだった。
Gはもともと、投資銀行業務、トレーディング・アンド・プリンシプル・インベストメント業務、資産運用・証券サービス業務の3業務のバランスの取れた経営をしていた。
3月期には再びトレーデイングで利益を上げているが、経営の安定性をどう確保するかが課題になっている。
JPもドイツ銀行もGも、もともとは顧客重視を標梼してきた。
銀行系は伝統的なコーポレートファイナンスで、証券系はM&A(企業の買収・合併)や株式・債券の引き受けなどが中心的な業務だった。
ところが1990年代以降、高いリスク管理能力を生かした自己取引に傾注し、自己取引では世界で最も進んだ金融機関といわれてきた。
しかも金融機関は自らが豊富な情報を持ち、最先端のリスク管理手法を取り入れていることから、ほかより有利な立場で常に利益を上げられると考えていた。
それが金融機関をプロップ取引へと駆り立てた。
しかし外部環境を読みきることは所詮不可能で、高い利益を上げてきたのは、高いリスクの見返りにすぎなかった。
それは金融市場の相場の上げ下げに賭ける「カジノバンキング」だった。
R破綻でその高いリスクが顕在化し、赤字を計上する金融機関が相次いだ。
一部の金融機関は、それまで自己取引で上げた利益の累積額を上回る損失を被った。
安定経営が期侍される金融機関の、カジノで大負けするような金融システムが健全なはずはない。
自己取引のあり方は見直しの時を迎えている。
米国では、商業銀行が1970年代から為替や債券などのトレーデイングで利益を上げていた。
為替は均年代初め変動相場制に移行した。
銀行は為替取引の仲介をしたが、為替ディーラーは顧客からの注文を取り次ぐだけでなく、自らもドル高やドル安に賭けた。
大手銀行は顧客の注文フローが見えるので、それを取り次ぐディーラーは為替売買で有利だった。
銀行はディーラーに一定のポジションを持たせて、為替の上がり下がりに賭けることで利益を上げようとした。
大口の買い注文を受けたとき、先に自らのポジションで買いを入れるディーラーも少なくなかった。
為替だけでなく、債券や株式でも自ら売買して利益を上げた。
米大手銀行は的年に、そうしたトレーデイングで利益のおよそ6%を稼ぎ出している。
日本では、日米欧がドル高是正で合意したお年のプラザ合意の前から、銀行は為替取引に注力し、為替ディーラーが円高や円安に賭ける取引を始めた。
債券ディーリングが解禁されると、大手都市銀行は競って力を入れた。
債券ディーラーは薄い手数料の仲介よりも、相場の読みが当たれば大きな利益が期待できる自己売買を強化した。
相場の読みが当たったディーラーは、通常の銀行員より高い給与を得た。
バブル期、若くても高給が稼げる為替や債券ディーラーは、花形の職業になった。
しかし、その実態は相場の上げ下げに賭ける賭博に近い行為だった。
日米ともそうした取引は本業の貸し出し業務に比べると限定的な規模で、経営全体の中ではあまり注目されなかった。
銀行による為替などの自己取引が一躍脚光を浴びたのは4月。
投機的な取引で市場を混乱させていると批判されたヘッジファンド、「Q・F」のJ・S氏が、上院銀行委員会で「商業銀行だってP・Tという名称でヘツジファンドと同じことをしている」と証言したことによる。
米国の議員や監督当局は、銀行がこっそりと実施していたプロップ取引の内容をつかんでいなかった。
ヘッジファンドの有力者からヘッジファンドと同じだと指摘され、急去その内容を調べ始めた。
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